後世が恋の証に作り変えた短詩。細かく読むと、物に想いを負わせる仕組みを、わずか二十文字で語っている。

この物語について

本稿は三つの層を分ける。現存する本文と王維の伝記から確認できること、紅豆を相思の象徴とする長く通行的な読み、そして後世のもの・不確かなもの、すなわち異題「江上贈李亀年」と豆の植物学的同定である。詩には複数の異文があり、いずれも定本ではない。制作年も不明で、同時代の文献でこの詩を恋愛に結びつけるものはない。四句の英訳は執筆者による。

二十文字

紅豆生南国、 春来発幾枝。 願君多采擷、 此物最相思。

王維「相思」、『全唐詩』巻一百二十八に収める本文である。五言四句、わずか二十字。旅も、別れの場面も、天気も、名前もない。英訳者は英語の読者が恋の詩に期待するものをほとんど補わねばならない。それが、これが私たちの想定する意味での恋の詩ではないかもしれない、という最初の合図である。

定まらない本文

短い詩だけに異文がよく見える。通行の整理本は注に残す。「春来」は一に「秋来」、「発幾枝」は一に「発故枝」、「願君」は一に「贈君」、「多采擷」は一に「休采擷」、また「勧君多采擷」に作る本もある。これは掃除してよい写字の雑音ではない。季節の選択は詩の温度を変え、招くか止めるかは、豆という贈り物の性格を変える。自筆本は伝わらず、原貌を名乗れる版本もない。

植物から断定へ

詩は四段で進み、後戻りしない。植物と方角、季節と数えきれない枝、誰かに向けた行為、そして一句の断定。末句が長く残る。話し手は「会いたい」とも「私を覚えていて」とも言わない。「此物」と物を指さし、想いの仕事をそれに引き渡す。比喩は一方を他方に似せるが、この句はもっと冷めていて、豆を記憶の役に任じる。だからこの詩は南へ行く誰にでも渡せ、二人の関係を名指す必要がない。

誰の相思か

題は「相思」。相は「たがいに」であり、双方向の想いを指す。唐代の用法では恋人の専有物ではなかった。離れた友、任地の違う兄弟、都から遠ざけられた官人も「相思」と言えた。詩は情を名指し、関係は名指さない。

王維の伝記は信頼できる答えを与えない。七〇〇年頃、太原王氏の一族に生まれ、科挙に合格して官に就き、一時左遷され、やがて尚書右丞(王右丞)に至った。安禄山が長安を取ったとき都にあり、反乱政権の職を強いられ、乱の後に許されて七六一年に没した。画家であり、篤信の仏教徒でもあった。後世の伝記は、妻の死後再婚しなかったと伝える。いずれも宛先を特定せず、同時代の文献でこの詩を恋愛に結びつけるものはない。

後から付いた題

後世の版本や筆記には、第二の題「江上贈李亀年」を与えるものがある。李亀年は玄宗朝を代表する音楽家で、早く梨園に入り、歌に優れた。杜甫は後に岐王の邸と崔九の堂の歌声を詩に憶う。安史の乱がその世界を終わらせ、ある後世の記録によれば彼は南方に流れ、大暦年間に湘潭で病死した。

この題に拠り所があるなら、詩は楽師の友人への別れの贈り物であり、それは本論を弱めず、むしろ強める。相思は明らかに友のものとなるからだ。だが題は詩の中になく、王維自身の自述でもなく、年代も定まらない。歌われ、読まれた歴史に属する。

どの紅豆か

紅豆は名であって種ではない。中国語ではいくつもの植物を指す。相思子(Abrus precatorius)はつる性で、硬く鮮紅の種子に黒い斑があり、毒性タンパクを含む飾り用の豆。海紅豆属や紅豆樹属の高木は赤い種子に穴を開けて珠にする。そして台所の赤小豆(Vigna angularis)は食材で、詩の南国とは関係がない。唐人がどれを指したか、あるいは南方の赤い種子という漠然とした印象だったかは、本文からは決められない。

恋の詩になるまで

それでも、恋の読み方が誤りなのではない。それは後世の受容の仕方であり、王維の本意を逆算する根拠にはならない。『相思』は十八世紀に編まれた童蒙選集『唐詩三百首』に収められ、また長く朗誦され、歌われてきた。その中で紅豆は恋の証となり、詩は証から逆算して読まれることが多い。この受容史は実在し、語る価値がある。だが王維が女性を詠んだ証拠にはならない。植物、季節、使い、断定――この抑制こそが、世代ごとの読者が自分の想いを注ぎ込めた理由である。

出典と参考資料

  1. 相思(王維),維基文庫:錄《全唐詩》卷128本文並附異文校記
  2. 全唐詩 卷一百二十八(王維),維基文庫
  3. 唐詩三百首,維基百科(清乾隆間孫洙編成,收王維詩二十九首)
  4. 王維,維基百科(生平、科第、尚書右丞、安史之亂、卒年)
  5. 李龜年,維基百科(梨園樂工、安史亂後流落、大曆間卒於湘潭;並及《江上贈李龜年》題名)
  6. 紅豆(消歧義),維基百科(紅豆一名所指之數種植物)
  7. Abrus precatorius, Wikipedia(相思子種子性狀與毒性)
編集方針